5日目


ただ黙ってキルアの話を聞く。


キルアは暗殺一家に生まれ、あの日も殺しという仕事を終えた後だったんだとか。


『どうして扉をくぐったの?』


何となく気になってキルアにそう尋ねると、キルアは少し俯いてぽつりともらす。


「俺、もう殺しなんてうんざりなんだよね。普通に友達作って普通に遊んで、親に決められたレールに逆らって生きたい」


そう言ったキルアは酷く悲しそうに笑っていた。


…やっぱり私の勘は当たってるかもしれない。


12歳になったら受けたいと言っているハンターなんて試験はこの世界にはないしそんな仕事もないし、こんな子供に殺しをさせはしないだろう。


それに、友達が必要ないだなんて、酷い言い草だ。


子供はいっぱい遊んでいっぱい食べて、たくさん寝るのが仕事だろうに。


『…あのね、キルア。友達に資格はいらないんだよ。この子と仲良くなりたいって思えばもう友達も同然。だから、私がキルアの友達一号になる。ダメかな?』


キルアに微笑みかけながらそう言えば、キルアは驚いた顔をした後今までで一番いい顔をして笑った。


「ダメなわけねーじゃん!」


ニカッと笑ったキルアは、私に次はこれがしたいだとかあれをしてみたいだとか、子どもらしく我が儘を言い始めた。


まだ少し警戒していたがそれも無くなったってことは、少しは仲良くなれたのかな?


††††††††††


明日は一緒にゲーセンに行こうと決めた時、ちょうど観覧車の扉が開いた。


どうやらもう終わってしまったらしい。


「お足元お気をつけ下さい」


先に降りたキルアがごく自然に私に手を差し出したから、私も一瞬戸惑ったけれど、キルアの手を取って降りた。


足元を気をつけてと言ったお姉さんが、軽く頬を染める私とキルアを見て何故か微笑ましそうにクスリと笑って見ていた。


それに恥ずかしくなった私は、赤く色づいた頬を隠すようにキルアの手をぎゅっと握り俯く。


「ぷっ。名前、すっげー真っ赤」


『何よ、それはキルアもでしょう?』


二人で顔を見合わせてクスリと笑う。


繋いだ手はあったかくて、心までポカポカする。


『キルア、今日はありがとね』


キルアの頬にそう言ってキスをした。


何だかキルアにもっと触れたいと思ったのだ。


キルアは私の行動に更に顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせる。


そんな様子を見て私は小さく笑った。


…キルアは私が守らなきゃ。


もしかしたら明日、キルアは元の世界に戻るかもしれないし、ずっと戻らないかもしれない。


なら、もしキルアが元の世界に戻っても強くいられるようにいっぱい愛情を注いであげよう。


きれいごとや戯れ事かもしれないけれど、それが私とキルアが出会った意味な気がしてならないのだ。


「…名前の馬鹿。恥ずかしい奴」


キルアはお返しと言わんばかりに私の頬にキスをした。


キルアがそんな行動をとると思っていなかった私は、不意打ちに顔を茹でたこのように真っ赤にする。


そんな私を見て、キルアはしてやったり顔で笑うのだ。


…いつまでもこうしていたいのに。


そんな気持ちが心の中に出来、嬉しくも寂しくもなる。


『マセガキ』


「んだとっ…!」


ぎゃあぎゃあじゃれあうのもいいかもしれない。


そう思うのは相手がキルアだからだろう。


このふわふわしてどこか不安で苦しい思いは、きっと現実になる。


その不安はキルアが元の世界に帰ることだろう。


私はキルアとじゃれあいながら、心の奥底で本能的にそう感じ取り、そっと蓋をした。


††††††††††


『んー…』


昨日夜遅くまでキルアとゲームをしていたから眠い。


遊園地から帰ってきてただでさえ疲れていたっていうのに…。


そんなことを思いながら私は朝ご飯を作るために起きる。


『おはよ、キルア』


小声で隣に寝ているキルアに挨拶をしておでこに軽くキスをする。


『ん?熱い……。もしかして…』


キスして触れたおでこがとても熱かった。


まさかと思い、手の平をキルアのおでこにくっつけると、高熱をだしていることが分かる。


38度後半から39度前半といったところか。


私はキルアを起こさないように、ベッドから抜け出した。


慣れない環境なのに無理をさせてしまった事に反省をする。


とりあえず濡れタオルと、氷枕を用意するべきだろう。


熱のせいで真っ赤になっているキルアの頬を撫で、じんわりと汗の浮かぶ額に前髪が張り付かないようによけてやる。


「名前……?名前…っ!」


氷枕を用意していると、キルアの声が聞こえて慌てて部屋に戻る。


『キルア…?起きた?』


「名前…、どこ行ってたんだよっ!」


部屋に入ると、ぎゅっと腰に抱き着いてきたキルアに驚く。


何か今日のキルアはやけに甘えたと言うか…、まるで母親と片時も離れたくないとだだをこねる小さな子どものようだ。


年相応と言えば年相応なんだろうが。


今までのキルアが大人び過ぎていたんだ。


††††††††††


『大丈夫だよ、キルア。私はいつでもキルアの傍にいるよ。だから安心して』


キルアをぎゅっと抱きしめ返しながら安心させるように言うと、だんだん落ちついてきた。


キルアは風邪をひくと、甘えたになるタイプなんだろうか。


私の名前を何度も呼びながらぎゅうぎゅうとしがみついてくるキルアはとても可愛い。


『キルア、風邪ひいてるみたい。熱測ろう?ね?』


優しくそう言うと、キルアはコクリと頷いてベッドに戻る。


私はキルアに体温計を渡し、氷枕にタオルを巻き付けたものを置いてやる。


濡れタオルで額の汗を拭っていると、電子音が響いた。


『何度?』


「38.7度」


『ご飯食べられる?』


コクリと頷いたキルアに、お粥のほうがいいのかなとか考えながらキッチンに向かう。


『……キルア?何でついて来てるの?』


部屋を出ようとすると、キルアが再び私の腰に後ろから抱き着いてきた。


もしかして、一人になるのが怖いんだろうか?


風邪をひくと一人が寂しくなるって言うし。


黙りこくるキルアの頭を一撫でして、しがみつくキルアをそのままにキッチンに向かう。



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